不活性化ウイルス粒子に画期的な抗腫瘍作用を発見し、癌治療薬を目指した治験を実施中

2016.05.11.
大阪大学大学院医学系研究科遺伝子治療学 教授 金田安史

我々は、日本で1950年代に発見されたセンダイウイルス(HVJ)の細胞融合活性に注目し、これを紫外線で不活性化した粒子に遺伝子や合成核酸を封入して培養細胞や生体組織への遺伝子や薬剤の導入法として用いることができるHVJ envelope (HVJ-E) vectorを開発した(図1)。これはさまざまな細胞に遺伝子や核酸、蛋白質などをまく融合により高効率で導入できるベクターであり、国内外で特許が成立している。

HVJ-Eを用いた癌遺伝子治療の研究の中で、我々はHVJ-E自身の抗腫瘍活性を見出した。それは抗腫瘍免疫活性化と癌細胞選択的なアポトーシス誘導作用である(図2)。HVJ-Eの中に含まれるウイルスRNA断片がこの抗腫瘍作用をもたらす。このRNAが膜融合で細胞質に入ると細胞質内のRNA receptorであるRIG-Iに認識され、MAVSに結合してIRF-1, 3,7等を活性化する。樹状細胞やマクロファージなどの免疫細胞ではこの経路でType I Interferon、CXCL10, RANTESなどの産生を促し、抗原提示細胞の活性化とNK cellやCD4+, CD8+ T cellの活性化を促すことが分かった。また融合タンパク質のFが樹状細胞に作用してIL-6を分泌させ、制御性T 細胞機能の抑制も可能である。一方、ヒト癌細胞では、RIG-I/MAVS経路でTRAIL, Noxa等の細胞死関連遺伝子が癌細胞選択的に発現増強し、癌細胞にのみアポトーシスを誘導する。最近、caspase 8欠損の神経芽腫細胞では融合により細胞質内カルシウム濃度が高まり、CaM-kinaseを活性化させて、Rip1, Rip3をリン酸化してプログラム化されたネクローシスを誘導することも分かった。HVJ-Eまさに複合的な分子標的薬であり、そのメカニズムは既存のどの抗癌剤にもない画期的なものである。もちろんIL-2やIL-12遺伝子を封入したHVJ-Eを用いた遺伝子治療は、さらに抗腫瘍効果を増強できることも明らかになった。げっ歯類やサルを用いたGLPグレードの多くの毒性試験が行われ、またベンチャーカンパニーはヒト細胞から無血清培地で大量のHVJを産生し、不活性化後、多段階カラムで均一粒子を精製し、GMPグレードの凍結乾燥製品を完成させた。これらの非臨床研究の実績を基に、メラノーマや前立腺癌では臨床研究も行われ、さらにこれら2つに悪性胸膜中皮腫を加えた3つの医師主導治験が大阪大学医学部附属病院を中心として進められている。

図1:HVJ envelope vectorの開発
図2:HVJ-Eは多彩な抗腫瘍活性を有する新規の癌治療薬である
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本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院 医学系研究科 遺伝子治療学 教授
金田 安史(かねだ やすふみ)
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2
TEL.06-6879-3901 Fax.06-6879-3909
kaneday@gts.med.osaka-u.ac.jp

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